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最高裁判所第三小法廷 昭和24年(新つ)5号 決定

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は末尾に添えた書面記載の通りであって、要するに被告人樗沢浩に対する昭和二二年勅令第一号及び衆議院議員選挙法違反被告事件の第一審裁判所たる原審は右事件の公判において檢察官から証拠調を請求した(一)檢察官の面前における(イ)金子堅太郎、飯吉義一、大野好一、(ロ)高松信一郎、高松信治、樗沢彦太郎の各供述録取書並びに(二)司法警察職員の面前における被告人の供述録取書を受理して証拠調を施行した。しかし右(一)(イ)の各供述者は公判において証人として尋問されるに当り刑訴法第一四六條により証書を拒んだのであり、(一)(ロ)の各供述者は公判において証人として供述したのであるが、(ロ)の録取書の供述は公判期日における供述よりも信用すべき特別の情況が存したものではないから、右(一)(イ)(ロ)の各供述録取書は刑訴法第三二一條第一項第二号に定める要件を備えていない。また、前記(二)の被告人の供述は任意にされたものでない疑があるから刑訴法第三二二條により証拠能力を有しない。そこで、弁護人は右の供述録取書は適法な証拠書類でないから公判において受理さるべきものでないと異議を申立てたのに拘らず原審は右の異議を却下してこれらの証拠書類を受理して証拠調を施行したのであるがそれは憲法第三七條第二項第三一條に違反すると言うのである。

しかしながら、原審が公判において所論の供述録取書を証拠書類として受理することができるかどうかは、もっぱら刑訴法第三二一條及び第三二二條の解釈如何によるのであるから、全く訴訟法上の問題であって憲法上の問題ではない。抗告人は原審の手続が憲法第三七條及び第三一條に違反すると主張しているけれども、それは訴訟法の違反を実質において主張するに当り強いて憲法問題に結びつけているに過ぎない。ところでこのような訴訟手続に関し判決前にした決定であってもっぱら訴訟法上の問題にとどまり憲法上の問題に触れないものに対しては、当裁判所に抗告することができないことは刑訴法第四三三條第一項によって明らかであるから、当裁判所は所論刑訴法の解釈上の争点について判断を示すことはできない。

よって刑訴法第四三四條第四二六條に従い主文の通り決定する。

以上は当小法廷裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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